今から君は僕の彼女ね!!というパワーワード・ナンパについていってしまった話
確かわたしが大学1年か2年の頃。
渋谷で誰かと飲んだ帰り、どこかで別れて、宮益坂を駅に向かって歩いていたときだったと思う。
結構飲んでいて、まっすぐ歩くけど多少よろつく、くらいの歩行で、ゆっくり横断歩道を渡ってた。
人通りはかなり多かったから、金曜夜とか土曜夜とかだったのかもしれない。
そしたらいきなり、向かいから来た男性にガッと腕を組まれ、組むなり向きをくるっと変えられた。
いきなりのことで、正面からきたその男がどんな外見だったか、見てすらなかった。
とにかく気付いたら腕を強く組まれて、今来た道をどんどん引かれていった。
男は組んだ腕を引きながらかなりのスピードで歩きつつ、わたしの耳元で
「今から君は僕の彼女ね!!」と叫んだ。
多分あちらも酔っていたんだと思う。
今からね!今から!僕彼氏だから!と連呼していた。
これやべー展開だ、とわかっていながらもお酒のせいなのか好奇心が出てきて、たいした抵抗もせず、されるがまま引きずられていってしまった。
連れていかれたのは暗い雑居ビルだった。
わたしの腕をホールドしたままばたばたともつれるように階段を上がっていく男。
まじで命に関わるやつなのではと一瞬酔いが冷めたのだけど、階段の踊り場で立ち止まってズボンを脱ぎ始めた男をみて、なんだただの性衝動かと安心したのを覚えている。
ただの性欲なら死ぬことはない。
今更逃げようもなく、少しだけ付き合ってやって、相手はわたしの口で果てて無事解放、となったのでした。
にしても、勢いまかせの「今から君は僕の彼女ね」はなかなか面白い営業文句だなあと今更思う。
彼は必死だった。
したくてしたくて、誰でもいいからつかまえたくて、酔ったあたまで必死に考えた営業文句が「今から君は僕の彼女ね」、だったんだあの男は。
なかなか気の利いた決め台詞だと思うよ。
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札幌のすすきのでも妙なナンパ?をされたことがある。
夜7時頃。初夏だったか、北海道らしい涼しい夏の夜だった気がする。
スナックで働いてたわたしは、店に向かうべく市電通りの狸小路のあたりをすすきの方面に歩いてた。
そしたら、ホストふう、にしてはかなり安っぽい、ぺらぺらのアロハシャツにプリンなりかけの長い茶髪、錆びたような色のネックレス、身体はがりがり、という、幸薄さここに極まれり!みたいなギャル男っぽい男が声をかけてきた。
どこ行くの、とか何してるの、とかありきたりな声かけ。
なんだよ。立ち止まらせたいならもっと面白い話題振ってこいよ。
わたしは早歩きを緩めることなく相槌と簡単な返事だけをして、いかにも刺さってませんというアピールをしたのだけど、ギャル男は並走したまま話を続けようと食らいついてきた。
とにかくどうにかしてどこかに連れていきたいらしい。
なんか怪しくなってきたな。
わたしの返事がこれから仕事だから無理、の一点張りに入ったあたりから、
「頼む、5分だけ!」
「お願いします、本当にお願い!」
とほとんど泣きそうな顔で、手を合わせて言い始めた。
うん。完全に怪しい。
それでもわたしに並んで歩き続ける男。
そんなに頑張られるとますます怪しくて逆に気になる、と思い始めた頃、あるビルの前にさしかかって、
「ここなんだよ、ここ!」
とビルの上の方を指をさして言いだした。
そのビルは1階がよくある昔ながらのお茶屋さん、2階はふるびたスポーツバーの看板がかかっていたけど、どちらも電気が付いてなくて真っ暗だったし、それより上の階はなんの看板もなく、カーテンが閉められて中のようすはちっともわからなかった。
これは興味本意で行ったらいかんやつ、と思って、ほんと無理だから他の人に言いな、と振り切って目の前の横断歩道を渡った。
後ろをちらと見たら、ギャル男は地面に膝をついてうなだれていた。
絶対ナンパじゃない。
あれはなんだったんだろう。
そして誰も連れて帰れなかった場合、あのギャル男はどうなるんだろう。
今でもちょっと気になる。
では。
くれぐれも知らない人にはついていっちゃだめだよ。
メトちゃんとのお約束。
じゃね〜